大和田常務が孫子の兵法をビジネスに応用している

人気ドラマ半沢直樹を見る上で外せないのが憎めない敵役の大和田常務ですね。

その演技力と独特のキャラクターからとても印象的な存在ですが、今回はその大和田常務が、「孫子の兵法」を見事にビジネスに応用させている点について、詳しく解説していきたいと思います。

大和田常務とは

大和田は、半沢直樹の勤める東京中央銀行で、もともと常務取締役を任されており、半沢直樹の上司にもあたる存在でした。

しかし、そんな大和田と半沢には深い因縁があります。

半沢がまだ学生のころ、半沢の父親が経営するネジ工場の融資を当時融資担当だった大和田が打ち切り、それが原因で半沢の父は自殺をしてしまいます。

大和田への復讐を胸に、東京中央銀行で上り詰める為、東京中央銀行に勤める事になった半沢に対し、様々な策を弄して半沢を打ち取らんとする大和田。

しかし、第一部のドラマで半沢により大和田の悪事が暴かれ、常務取締役から平役員の座に降格となってしまいました。

しかし、降格処分にとどめてくれた中野渡頭取に恩を感じて、第2部では真に銀行の為になる働きをします。

孫子の兵法とは

孫子の兵法とは、中国の春秋時代を生きた、孫子(本名:孫武)が書いた兵法書のことです。

本名:孫武

誕生:紀元前535年

没年:紀元前496年

出生地:斉国(現在の中国山東省北部)

職業:軍略家(現在で言う戦略コンサルタント)

兵法書というと、陣の取り方等、戦の勝ち方に特化した知識と思われる方も多いかもしれませんが、孫子の兵法は現在も、孫正義(ソフトバンク社創業者)やビルゲイツ(マイクロソフト社創業者)等、多くのビジネスマンにも読まれており、ビジネスの指南書としても役立てられております。

孫子の兵法がビジネスに役立つ理由

数千年も前の兵法書が何故、現在のビジネスに役立つのでしょうか。

それは、孫子の兵法が「人」の心理について書いているからに他なりません。

数千年前に軍略家が「人」を動かして戦に勝ったように、現在のビジネスマンは「人」を動かして、群雄割拠のビジネス業界で勝たなくてはなりません。

そういった中で、結局「人」を如何に有効に動かすかが勝利の鍵となります。

孫子の兵法では、どの様に人を動かせばより良い効果、結果を生み出せるかを書いているので、現在のビジネスにおいても応用が利く、有用な知識となります。

また、「人」を動かすと言うと、経営者や管理者が部下を動かすというイメージが強いかもしれませんが、孫子の兵法では、配下のみならず、自分自身や敵をどう動かすか、どう動かざるを得なくするかといった点も含まれる為、全ての人に応用が利く内容となっております。

ちなみに私が読んだのは下記の書籍です。


最高の戦略教科書 孫子 [ 守屋 淳 ]

大和田常務が孫子を応用した実例

①上兵は謀を伐つ・・最善の策は、事前に敵の策を封じる

大和田は、自分の意に反する者や自分に不利益が生じかねない告発等はいち早く察知して、先んじて潰すように根回しをしております。

そうする事で、直接的な争いになる前に、敵を失脚させるという、まさに、「戦わずして勝つ」という、最上の策を取っている事がわかります。

例えば、第1部のドラマでは、伊勢志摩ホテルにおいて120億の損失の内部告発を握りつぶして、200億円の融資を実行した事が大和田の指示によるものと察した半沢に対して、大和田は、実行犯に当たる貝瀬支店長を呼び出して、「君が勝手にしたことだろ?」と釘をさします。

伊勢志摩ホテルの羽根専務が「いつものように銀行から離れてもらえば?」と持ち掛けた際、

大和田は「スポーツでも『先に動いた方が負け』と言うじゃないですか。ここはジックリと半沢君の出方を楽しみましょう」と述べています。

実はここにも、孫子の兵法の考えが織り込まれております。

孫子の言葉で、「よく敵に因りて変化し、而して勝を取る」というものが有ります。

即ち、敵の形勢に応じて変化しながら勝利を勝ちとるという事です。

先に敵(半沢)を動かして、策を探り、その策を打ち取るという大和田のスタイルが垣間見えた回です。

②その次は交わりを伐つ・・次善の策は、敵を孤立させる

敵の策が読めない場合や、策を封じるのが困難な場合は、敵の味方を減らして孤立させる事で、戦う前に敵を弱体化させるというものです。

ここについても大和田はしっかりと倣っております。

半沢に協力をしていた近藤(半沢の同期)に対して、銀行(それも近藤が希望していた広報部)に戻る事をネタにして半沢を裏切るよう差し向けます。

これにより、半沢は大和田を追い詰める証拠を失い、想定以上に苦戦を強いられることとなります。

③能なるもこれに不能を示し、その無備を攻め、その不意に出ず

大和田の得意技の一つとして、立場が上の者の懐に入り込む事がとても上手だといえます。

特に、第2部終盤での箕部幹事長へのすり寄りは見ものでした。

完全に白旗を上げて、軍門に下った。ように見えました。

しかしそれも、自らを不能に見せて、懐に入り込み、情報を得る為の戦略だったわけです。

孫子はこのようにも書いています。

「勝つべからざるは己に在るも、勝つべきは敵にあり」

「負けないかどうかは自軍の努力次第だが、勝機を見出せるかどうかは、敵の態勢如何にかかっている」というものです。

④始めは処女の如くにして、敵人、戸を開き、後には脱兎の如くして、敵、防ぐに及ばず

「最初は処女のように含まって、敵の油断を誘い、そこを脱兎のごとき勢いで攻め立てれば、敵はどう頑張った所で、防げない」という意味の言葉です。

まずは敵の情勢を探るべく、あえて不能者を演じて敵の懐に潜り込み、勝機を探る。

そこで勝機を見出せない場合は勝負をしない。しかし、一度勝機を得たならば、一気に攻め切ります。

⑤勝兵はまず勝ちて而る後に戦いを求める

「予め勝利する態勢を整えてから戦うものが勝利を収める」というものです。

大和田はギリギリまでどっちにもつける立ち位置を貫いてきましたが、箕部幹事長を追い詰める切り札がそろった事で、一気に箕部幹事長へ反旗を翻しました。

「はぁ~?すみません、最近ちょっと耳が遠くて」とまくしたてるシーンは正に爽快だったのではないでしょうか。

このシーンはかの有名な「風林火山」にも通ずるものを感じました。

この風林火山、実は続きがあることをご存じでしょうか?

「その疾きこと風の如く、その徐かなること林の如く、侵略すること火の如く、動かざること山の如く、知りがたきこと陰の如く、動くこと雷霆の如く」となります。

勝負が決するギリギリまで静かに、動かず、悟られずいるけれど、いざ勝機をつかんだら、一瞬で勝負を決めに行くという。まさに大和田常務のスタイルではないでしょうか。

⑥必ず全きを以って天下に争う

「相手を無傷のまま味方に引き入れて、共に戦う」というものです。

大和田は第2部で宿敵の半沢をも仲間に引き入れて、大敵、箕部を討ち果たします。

ここに関しては、宿敵である黒崎検査官や白井大臣をも味方に引き入れてしまうという点で、

半沢は大和田以上に上手であると言えるでしょう。

また、孫子では「呉越同舟」という有名な言葉もあります。

仲の悪い者同士も、より大きな共通の敵や目的があれば、協力するというものです。

まとめ

今回は、ドラマ半沢直樹の大和田常務に当てはめて考えましたが、銀行に限らず、ビジネスとは人と人の関わりがベースとなるので、事業の戦略を考える際に、孫子の兵法がとても有用な知識となります。

私自身、事業戦略を考える職業柄、いろいろとビジネス関連の書籍を拝読してきましたが、そんな中でも、孫子の兵法は長年読み継がれるだけあって、とても的を得ていると感じました。

実際に書店でも、MBAや経営戦略の書棚に並ぶほど、孫子は現在の事業戦略に役立つ本です。

この機会に是非読んでみるのはいかがでしょうか?