渋沢栄一氏は新一万円札の顔に抜擢され、2021年の大河ドラマの主役にも選ばれる人物ですが、何故これほどまでに重要視される人物なのか。
渋沢栄一氏の著書である「論語と算盤(ろんごとそろばん)」のポイントを紐解きながら解説していきます。
目次
渋沢栄一 日本実業界の父
渋沢栄一氏は、「日本実業界の父」とも呼ばれておりますが、彼が設立に関わった企業はおよそ500社にも上り、代表的な企業として以下のような企業が挙げられます。(カッコ内は現在の呼称)
第一国立銀行(みずほ銀行)
日本鉄道(JR東日本)
帝国ホテル
東京海上保険会社(東京海上日動)
田園都市株式会社(東急電鉄、東急不動産)
東京瓦棋会社(東京ガス)
東京株式取引所(東京証券取引所)
このように日本の産業を引率してきた主要企業を次々と生み出した人物こそが「産業の父」とも呼ばれる渋沢栄一氏なのです。
そして、渋沢栄一氏が、江戸~明治~大正の激動の時代に生きて得た経験や学びを後世に残したす為につづったのが「論語と算盤」という本です。
論語と算盤 (角川ソフィア文庫) [ 渋沢 栄一 ]
「論語と算盤」のポイント
①「論語」と「算盤」の意味するところ
論語とは本来、孔子と弟子たちとの問答を集録した書のことですが、
この本で述べられる「論語」は、上記を転じて「道徳教育」てきな意味を持っております。
また「算盤」、従来商売の為の道具ですが、本書では利益を得る為の「商売」や「事業」を意味しております。
渋沢氏が少年時代だった江戸時代末期、論語は武家が学ぶものであり、
利潤を追い求める商売は卑しむべきものとされておりました。
そのような時代において渋沢氏は、「金銭を卑しむようでは国家は立たぬ」と言って、
大蔵大臣や日銀総裁の席さえも辞退して、実業の道を志しました。
本書最大のポイント「智」「情」「意」を備えて、完き人となる
渋沢氏は、本書の中で、常識は「智、情、意」の三者が各々権衡を保ち、平等に発達したものであり、常識の人は完き人だと語っております。
そして、「智」「情」「意」の意味を、要約すると以下のようになります。
「智」:ものの善悪是非の識別や利害得失の鑑定における能力
「情」:他人との不均衡を調和する為の緩和剤
「意」:動きやすい情を控制する鞏固(きょうこ)なる意志
これら3つの要素をバランスよく兼ね備える人が完き人となります。
偉き人と完き人
先に述べた完き人との比較対象として、偉き人が有ります。
偉き人とは、歴史に名を刻むほどの英雄豪傑の中で、「智、情、意」の権衡を失した人のことです。
一例として比較されるのが、豊臣秀吉と徳川家康です。
いずれも天下統一を果たした大将軍ですが、豊臣の天下は1代で終わりを告げ、徳川政権は15代にわたって続きました。
この明暗を分けたのが、偉き人と完き人の差だと本書では語られております。
豊臣秀吉は、とても勉強家であり、「智」の面では秀でておりましたが、「情」の面で不足画あったため、人徳を得られず、その栄光を後世に残すことができませんでした。
一方で、徳川家康は「智、情、意」をバランスよく兼ね備えた事で、堅固な政権を確立し、後世までその栄光を繋げるに至りました。
孔子の貨殖富貴観
江戸時代の道徳教育として、論語の他に儒教が有りました。
この儒教は孔子の論語を後世の解釈で説いた教えなのですが、本書では儒教の解釈の誤りを指摘しております。
儒教では、「富貴のものに仁義王道の心あるものはいないから、仁者となろうと心掛けるならば、富貴の念を捨てよ」としております。
現代の言い回しにすると「金儲けをする人にいい人はいない」という内容になります。
日本において金持ちのイメージが悪いのは、この思想が根付いているからかもしれません。
しかし、この思想は論語の一部分のみを切り取って解釈した為に誤りがあるとしております。
本書に記載される論拠を読めば、孔子が伝えたかった内容は、「道理を得ない利益を得るくらいなら貧乏でいるべきだが、道理を踏んで得た利益は差し支えない」という意図であることが読みとれます。
この考え方を渋沢氏は「義利合一」と呼んでおります。
まとめ
上記のポイントをさらに端的にまとめると、以下2点に集約できると考えます。
・金儲けは卑しむべきものではない
・強い意志のあるものが、物事を判断する智恵と利他的な情を持って完きものとなる
非常に端的にポイントを絞るとこのようになりますが、本書はとても奥の深い本であり、読み返す度に新たな発見がある良書だと思います。
当ブログで内容のあらましを得た上で、是非手に取って読んでみては如何でしょうか?